当ブログについて

2034.02.14.Tue.
こちらはオリジナルBL小説ブログサイトです。

エロメインの内容となっておりますので、18歳未満、学生の方の閲覧はご遠慮下さい。
露骨な単語を多用していますので、免疫のない方、不快感を抱く方も閲覧は控えたほうがよろしいかと存じます。ご気分を害されてもそこは自己責任でお願いします。

荒し目的の方はお帰り下さい。
著作権は放棄していません。掲示板への転載、リンクはおやめください。

いわれのない誹謗中傷には傷つきます。
ご意見、ご感想はありがたく頂戴いたしますが、ここの注意書きを無視した内容のものや、悪意しか感じられないものは反応しようがありません。

誤字脱字やリンク不備などありましたら教えて頂けるととても助かります。

禁止やお願い事ばかりとなってしまいましたが、皆さまに楽しんで頂くためでもありますので、ご協力よろしくお願い致します。

最近めっきり書く数が減り、苦し紛れと自己満足で以前書いていたものの更新がメインになっています。今まで自分が書いてきたものの記録と言うか一覧できる置き場がわりでもあります。何卒、ご容赦を。

開設2014年2月14日

続きを読むで小説リスト表示

【続きを読む】
スポンサーサイト



Reverb(5/5)

2021.10.25.Mon.


 秋名と広岡が仲直りしたのは『事件』の二週間前のことだ。美原が二人に口添えをした結果だ。

 松田に気付かれないよう細心の注意を払いながら、広岡にいじめを唆したのは松田だとさりげなく秋名に伝えた。広岡には松田が秋名を陥れようとしたのは何か理由があるんじゃないかとほのめかした。

 その後も松田の目を盗んでは秋名の怒りを煽り、広岡には利用されたままじゃ馬鹿だと気付くよう誘導した。共通の敵を作ることで二人の関係はもとに戻った。表面上は。

 二人から向けられる好意を利用し、相手に優越感を抱かせるようそれぞれに意味深な態度と言葉をちらつかせた。それによってお互い思うところがあっても「仲直りしたほうがいいよ」という美原の言葉に従ったのだ。

 その後も二人は松田を油断させるために仲の悪いふりをし続けた。任せておけそうだと判断した美原は余計なアドバイスはせず二人を見守った。ただ待っているだけでよかった。

 秋名と広岡は松田を陥れるとっておきの策をねり、そして実行してくれた。女性ものの下着は二人が松田の鞄に仕込んだものだった。騒ぎのあと、仲違いの演技をやめた秋名と広岡がこっそりと、自慢げに教えてくれた。

 驚いてみせつつ、しっかり誰にも言うなと口止めしておいた。

 一週間ぶりに登校した松田は空気に戻ることを許されなかった。ホモだオカマだとからかいの的になった。ついでに美原も松田の想い人として巻き込まれたが、松田の顔を見るとなんともいえない愉快な気分になったので特に止めることはしなかった。むしろ、からかう連中を相手にしないことで空気に戻ろうとする松田を庇い、優しく接してやることで火に油を注いでやった。結果として美原までホモ疑惑が持ち上がったが、一部女子から「そんなわけないでしょ」という強い非難により、あっさり消えた。

 松田の鞄から下着が出てきた事実は、松田同性愛の噂とともに瞬く間に学校中に広まった。風化させないよう、美原が適度に燃料投下したためいつまでも新鮮なネタとして扱われた。

 同級生のからかいに松田は辛抱強く耐えていた。そしてそんな状態でも用心深く美原の行動を観察し、なにか落ち度がないか探っていた。その執念深さにはさすがの美原も脱帽する思いだった。だから美原も慎重に次の手を打った。

 同じ小学校だったやつに、以前松田がクラスの女子と噂になったことを会話に混ぜて思い出させた。翌日には松田は昔からストーカー気質だったと広まった。秋名と広岡の援護射撃も効いた。女子からは徹底的に嫌われ、男子からは女装癖のあるホモだと笑いものにされた。誰もまともに松田の話を聞かなかった。相手になんてしなかった。

 それでもまだ足りない。美原は満足できなかった。

 ある日の放課後、松田の目につくよう少しだけ挙動を怪しくし、わざとあとをつけさせた。グラウンドの脇、校舎の陰にあるとある運動部の部室に入ったように見せかけて、美原は物陰に身を潜ませた。美原を探して忍び足の松田が近づいてくる。部室の戸を慎重に開ける松田の背中を突き飛ばした。

 倒れこむ松田の背中を見ながら部室の戸を閉めた。中には部活をさぼる三年生がたむろしているはずだった。そしてその三年生も松田の噂は知っているはずだった。

 美原は静かにその場から離れた。

 それからというもの、松田は上級生から呼び出されるようになった。基本的にパシリに使われてるようだったが、放課後の部室では性的ないじめを受けていたらしかった。

 いつ登校拒否になってもおかしくない状況だったが、美原に一泡吹かせたい、負けたままでいたくないという一心からか、松田は登校し続けた。松田の根性には感心するより呆れてしまった。

 しかしそれもそう長くは続かなかった。以前は憎悪や怒りでぎらついていた松田の目が虚ろなものにかわっていった。体重も落ちて頬がこけた。空気というより幽霊のようなうすら寒さを感じさせた。

 いじめが続けば自殺するかもしれない。そうなろうと構わないというのが美原の本音だったが、死ぬ前に聞いておかなければならないことが1つだけあった。

 ◇ ◇ ◇

 日が落ちてあたりがすっかり暗くなった頃、松田が部室から出てきた。のろのろとした動作で部室の鍵をかけると、決まっているのであろう隠し場所へ鍵を隠す。振り返り、待ち構えている美原の姿を見るとびくりと体を震わせた。

 見られたくない場面を見られたように松田は目を泳がせ俯いた。以前のように睨み付けてこない。尻尾を丸めた犬のように美原に怯えている。

「大丈夫か?」

 ずいぶん痩せた松田を見ていると自然とそんな言葉が口をついて出た。

 松田は顔を歪めた。

「もう許してくれ」

 ぽろっと涙が零れたと思ったら、松田は大きくしゃくりあげて泣き出した。

「もう、許してくれ……俺が悪かったから、おまえに歯向かわないから、もう何も言わないししないから……もう許してくれてもいいだろ……なぁ、美原、頼むから……」

 松田は心身ともにとっくに限界を超えていた。
 美原は松田の肩に手を置いた。涙でぐちゃぐちゃの顔をのぞき込む。

「許してくれとかなんの話かわからないんだけど」
「美原……」
「そんなことより、松田、きみに聞きたいことがあるんだ」
「なに……」
「きみは岸本の引っ越し先を知っているのか?」

 いきなり出てきた岸本の名前。松田は一瞬ぽかんとなったが、すぐ首を横に振った。

「知らない、知らない」
「本当に? 思わせぶりな態度だったけど」
「ほんとに知らない……美原が岸本を探してたって聞いたから言っただけ、ほんとに知らない、知らない……ごめん」
「なんだ、残念だな」

 美原は落胆の表情で溜息をついた。

 ひどい疲労感が襲ってくる。松田を完全に負かしても、助けてくれと縋り付かせても、束の間の昂揚は味わえても満足は得られない。

 そんなものより「岸本」とたった一言声に出して言うだけで、全身に痺れのような感覚が走る。岸本以上に酷いことを松田にしてやっても何も楽しくない。まるで物足りない。

 美原は空を見上げた。雲のかかった月が見える。岸本がいなくなったと知ったあの夜が蘇る。人生最低最悪の日。いまも似たような状況だ。ここにはいない、どこにいるかも知れない岸本から復讐されているような気分になる。

「疲れたな」

 美原はぽつりと呟いた。

 ◇ ◇ ◇

 夏の大阪は暑かった。特に今日は雲一つない快晴で照り返しも強い。さきほど冷房の効いた研修会場から出てきたばかりなのに、もう額に汗が滲んだ。

 鞄からハンカチを出そうとして、マナーモードにしていた携帯電話が震えていることに気付いた。発信者は島田小夜子。上司の娘。来年秋に妻になる女性。

 美原は電話にでた。

「はい」
『お仕事中にごめんなさい、いま、大丈夫?』
「もうすぐ地下に入るけど、いまは大丈夫だよ。どうかした?」
『いまホテルで結婚式の打ち合わせをしているんだけど、招待状のデザインが決められないの。3種類までは絞れたんだけど。恵一さんの意見も聞きたいと思って』

 先日、結婚式の日取りが正式に決定したばかりだ。招待状ひとつでわざわざ電話してくるなんて、この先が思いやられる。

「現物を見ないとなんとも言えないよ」

 爽やかに美原は笑った。

「写真を撮って僕の携帯に送ってくれる? それを見てあとでメールするよ」
『一応ね、これがいいんじゃないかなってのはあるの。でもほかのふたつも捨てがたくて。私が思ってるのと恵一さんのが同じだったら、迷わずそれにしちゃうんだけど』

 美原は静かに苦笑した。

「それは開けてからのお楽しみだね。だけどきっと同じものを選ぶんじゃないかな。僕たち、好みが似てるから」
『そうかもね』

 電話の向こうで小夜子が笑う。

 小夜子の視線、さりげない動作から、小夜子の好みや望みを推測するのはわけのないことだった。今回の招待状も、把握している趣味嗜好から簡単に割り出せそうだ。

「それより悪いね、打ち合わせに僕も参加できなくて。小夜子一人に任せてしまって」
『仕方ないわよ。平日なんだもの。男の人が来られないことはよくあるんですって。逆に女の人だけのほうがスムーズに決まるそうよ』
「ええ? 僕はいないほうがいいってこと?」
『ふふっ、そんなことはないけど。きっと恵一さんがうんざりしちゃうわ。さっきからプランナーさんと関係ない話ばかりして、まだ何ひとつ決まってないのよ。男の人ってそういうの、付き合ってられないでしょ?』

 確かに苦痛以外のなにものでもない。

「そんなことないよ、僕だって楽しみにしてるんだから。今度の休みは一緒に行こう。できるだけ打ち合わせに参加するようにするから。ごめん、もうすぐ地下に入るから切るよ」
『お仕事頑張ってね』
「うん、じゃあ」

 通話を切って携帯電話を鞄に仕舞った。電車に乗るため階段を下りて地下道を行く。

 人徳があって部下から慕われ本店で力のある上司の娘。美原自身、自分が優秀な銀行マンである自覚がある。出世しないわけがない。小夜子と知り合い、付き合いを始めたときに打算がなかったと言えば嘘になる。すべてにおいて最善を尽くしてきた結果だ。

 本当に愛しているのかと自問したことが何度かある。が、実のところ愛というものがわからない。理解できない。笑う小夜子がかわいいと思う。大事にしてやりたいと思う。結婚を決意したとき、それが愛なのだと結論づけた。

 地下鉄の案内表示を見ながら迷路のような地下道を行く。目当ての改札を見つけ、美原の目はすぐ隣の券売機へ移動した。

 十台ほど並んだ券売機の前は混雑していた。財布を出しながら近づいていく。なにかひっかかるものを感じて美原は顔をあげた。周囲を見渡すと、少し離れた場所で料金表を見ている男がいることに気付いた。

 急にわけもなく心臓が跳ね上がった。発作を疑うほどの動悸に加え、聴覚にまで異常が出始めた。雑音が遠のいていく。ついには無音状態となり、自分の荒い息遣いだけが耳の奥で聞こえる。

 美原は男の姿を凝視し続けた。まったく見覚えがないのによく知っているような気がする。知っている誰かに似ている気がする。不必要だと判断し記憶から削除されたその他大勢の一人? そんなものじゃない。そんないい加減な関わり方をしたのじゃない。

 引きつけられるようにふらふらと男へ近づいた。

 長年、頭の隅にこびりついて離れない人物がいる。その人物を思い出すと胸を締め付けられる。指先にまで痛みが走る。美原は、頭のなかで響き続ける名前を口にした。

「――――岸本?」

 男がゆっくりこちらを向く。そして小さく会釈した。

 本当は一目見たときから気付いていた。思い出していた。感情に思考が追いつくまで、防衛本能が記憶の奔流を堰き止めた。でなければ美原は錯乱していたかもしれない。

 騒音が耳に戻った。美原も理性を失わず、自分を取り戻していた。

「やっぱり岸本か。おまえ、かわらないなぁ。ここで何してる?」

 岸本はまだ思い出せないらしく、困り顔で美原を見上げていた。その顔を見ていたら歓喜の鼓動で胸が潰れそうだった。先走りそうになる感情と、フル回転を始める思考。夢を見ているのではないかと疑わずにいられない。

「美原?」

 かすれた声で名前を呼ばれた。声を聞いただけで泣いてしまいそうなほど感動した。

「ようやく思い出せたか。小学校卒業以来だな」

 頬が自然と持ち上がる。緩みきった顔を岸本に見られるのは屈辱だがどうしようもなかった。

「ど、どうして、ここに」
「仕事。出張さ。岸本、おまえは?」

 自分が大阪にいることを思い出し、岸本が大きな袋を持っていることに気付いた。岸本が隠す前に覗き込み、中身が枕であることを確認した。

「ここに住んでいるのか」
「いや、俺は……」

 美原は瞬時に考えを巡らせた。ここで岸本を逃がしてはならない。このまま別れてはいけない。

「ちょうどいい。手違いでホテルの予約がまだなんだ、お前の家に泊めてもらおう」

 当然渋る岸本から強引に携帯電話を出させ、自分の携帯にワン切りした。

「発信履歴を見れば僕の番号がわかるだろう。登録しておけ。二時間後にこの場所だ。遅れたら……わかってるな」

 研修も終わり、あとは大阪本部へ顔を出すだけ。一時間もかからないだろう。移動時間も入れれば二時間あれば余裕でここへ戻って来られるはずだ。

 実際は予定を一時間もオーバしてしまうのだが、いまの美原にそれを知る術はない。

「二時間後」

 券売機にお金を入れる。その指先が震えて小銭を落としてしまいそうだった。岸本に醜態を晒したくない一心で、足早に改札を抜けた。

 ホームで電車を待っているあいだも興奮はおさまらなかった。夢なのではないか。本当の自分は熱中症で倒れて病院のベッドの上なのではないか。夢でなければ幻覚か。幽霊か。

 握りしめたままだった携帯電話を開いた。着信履歴に残る未登録の11桁の数字。岸本を表す数字。

 二時間後、岸本が待っている確率は限りなくゼロに近いだろう。待ってなくても構わない。小学六年の終わり、岸本が忽然と姿を消したあの日を思えば、それくらい痛くもかゆくもない。

 大量の脳内麻薬が分泌されるのを感じる。久しく忘れていた昂揚感。不可能はないように思われる。(終)