テレパシー

2021.06.30.Wed.
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大学の敷地内を歩いているといつ何時でも五代の姿を探してしまう。
たいてい空振りで終わるのだが、今日は運が良かった。
前方を歩く五代を見つけた。黒い髪と大きな背中を見ただけで心臓がどくんと高鳴る。
条件反射で声をかけそうになったが、五代の隣に友人らしき人物を見つけて息を飲みこんだ。

一人だったら迷わず駆け寄り声をかける。
でも誰かと一緒だったら、一応空気を読んで我慢する。

2人の雑談の声までは聞こえないが、和やかな空気。
友人の言葉に五代が頷いたり、何か答えるのを離れた場所から見守った。
友人との時間を邪魔したくはない。
だけど正直、五代が自分以外の誰かを見る目や、頷く仕草、話しかける声と言葉に嫉妬せずにいられない。
自分だけに向けて欲しい。できることなら独り占めしたい。

行き過ぎた願望だとわかっているから表に出さないように秋邑も必死だ。

──こっちを向いて。

声には出さず、このくらいは願ってもいいだろうと、全身全霊をかけて心のなかで五代に呼びかける。

──こっちを向いて。俺に気付いて。俺はここにいるから。振り向いて。お願い、俺を見て。俺に気付いて。

と念を送り続ける。
果たしてそれが通じたのか。

不意に五代が振り返った。
秋邑を見つけたのか、小さく会釈を寄越すと前に向き直った。

──俺に気付いてくれた。これって心が通じてる証拠だよ!

ほんの一瞬、五代がこちらを見てくれただけで心が浮つくのを止められない。




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