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2021.09.17.Fri.
【大学生編】→目次

※五代と出会ったあと

五代と離れている間、自分は半分死んでいるも同然だ、と大げさでもなんでもなく、秋邑は本気でそう思う。

常に視界に入れていたい。体に触れていたい。五代を感じていたい。
誰かに対し、ここまで強く依存したことも、独占欲を持ったこともない。
五代だけが特別だった。

だからかなりの自制心を持って過度な連絡は控えている。
本当は毎分メールしたいし、毎時電話で声を聞きたい。

講義も一週間に1、2度受ければいいだけなのに、五代に会うためほぼ毎日大学へ行っている。

五代には卒論制作のためだと言ってある。嘘じゃない。

五代が講義を受けているあいだに図書館で卒論の資料を読んだり下書きをしたり、前もって約束を取り付けておいた教授のもとを訪ね質問したり添削してもらったりしている。
五代と会う時間を作るため集中してやっているので特に躓きを感じることもなく順調に進んでいる。

休みの日は、五代の負担にならない程度に遊びに誘う。
付き合い始めてからは五代から誘ってくれることもある。
どんな用事や予定より五代を優先した。

おかげで最近、友達から付き合いが悪くなったと言われている。
卒論が進めば進むほど、外の気温が下がり着込む服の数が増えるほどに、もうすぐ大学生活も終わりなのだと実感する。
五代と一緒に大学にいられるのも残りわずかなのだ。誰にも邪魔されたくない。

昨日の土曜は五代に用があったので、秋邑も誘われていたバーベキューに参加した。
たくさんの友人たちとワイワイ騒ぐのは楽しい。
でもふとした瞬間、寂寥感に襲われる。
今頃五代はどこでなにをしているんだろうと考えたら胸が締め付けられた。
いますぐ会いに行きたい。声を聞きたい。
電話したくなるのを明日会えるのだからと必死に我慢した。
たった一日離れていただけで耐えがたいほど寂しかった。

そして今日、やっと五代に会える。

五代のアパートの前に立った秋邑は改めて身なりを整えた。
ジリリ、と古めかしい呼び鈴を鳴らすと「どうぞ」中から声がする。
最近は秋邑が来ると分かっていると鍵をあけておいてくれるようになった。

「お邪魔します」

なかに入ると五代は台所にいた。
火にかけたヤカンの前に立っている。

五代の顔を見ただけで、声を聞いただけで、匂いを嗅いだだけで、胸がいっぱいになった。
死んでいた半分が息を吹き返し、全身の全細胞が五代を好きだと訴えかける。
秋邑自身、声に出して言ってしまいそうで、それをなんとか飲みこんでかわりに笑みを浮かべた。

「なにしてるの?」
「コーヒーでも飲もうかと思って。アキさんも飲みますか?」
「じゃあ俺が淹れるよ」

腕をまくり手を洗う。
五代のためになるならなんだって自分の手でしてあげたい。

「高尾山はどうだった? 楽しかった?」
「楽しかったですよ。天気も良かったし」

五代は昨日、友人たちと高尾山へ登山に行った。
いつも本を読んでいる五代が登山をすると聞いて最初意外に思ったが、黙々と山を登る姿を想像したら違和感はすぐ消えた。
俺も行きたい!と五代の迷惑も、自分の体力のなさも考えず口走りそうになったが、そこはなんとか堪えて見送った。
後先考えない行動で失敗した過去もある。ミス研での合宿がそうだ。

「アキさんはバーベキュー楽しかったですか?」
「うん、楽しかったよ。でも……」

と五代を見上げる。

「やっぱり五代くんと一緒にいるときが一番楽しい」

五代の優しい微苦笑を見たらたまらなくなった。

「五代くん、キスしていい?」
「どうぞ」

秋邑は顎をもちあげた。
簡単に唇が重なる。
もっと近づきたい。もっと密着したい。
五代の唇の隙間をこじ開け、中に舌を潜り込ませた。
夢中で五代の舌を吸った。
腰がジンジン痺れ、股間が疼いた。
五代に触れただけでこうなってしまう。

もっと先を、と思ったとき、ピーッとヤカンが音を立てた。

唇が離れ、五代がコンロの火を消す。
秋邑のムラムラなんかお構いなしの涼しい顔で、コーヒーカップに湯を注ぐ。
それを二つ持って、テーブルのある部屋へ移動する。
猫背気味の、広く大きい背中を、秋邑は名残惜しく見つめながら後を追った。

「買い物はいつ行く?」

五代の隣に座り、カップを手に取る。

「実はさっき起きたばかりで洗濯がまだ途中なんです。なので洗濯が終わってからでいいですか」

早起きの五代が寝坊とは珍しい。

「昨日は遅かったの?」
「夕方前に山は下りたんですけど、そのあと飯食ってスーパー銭湯に行く流れになって、帰ってきたのが朝だったんですよ」
「ほとんど寝れてないじゃん」
「銭湯でちょっと寝ましたよ」
「無理しないでちゃんと寝なよ、洗濯は俺がやっておくから」
「大丈夫ですよ」
「だめだめ、ほら立って。布団行って!」

立ちあがり、五代の腕を引っ張った。

「じゃあ、一時間だけ」

五代が腰をあげる。
眼鏡を外し、枕元に置くと布団に潜り込んだ。
五分と経たず、寝息が聞こえてきた。

洗濯物を窓に干したあとコーヒーカップを洗った。
そのあと五代の横に座り寝顔を眺めて過ごした。

──五代くん、今日もかっこいい。

夏でも日に焼けない肌は吹き出物ひとつなくきれいだ。
彫りの深いところも好きだし、眼鏡の鼻あての跡も愛らしいし、男らしい眉も、意外と下睫毛が長いところも、全部が好ましい。

こんなにかっこいい人が俺の彼氏でいいんだろうか。

自分は顔のことを褒められるのは苦手なのに、五代には会う度、実感する度「カッコいいね!」と言いたくなってしまう。

「あ、そうだ」

秋邑は鞄からスマホを出すと、カメラを五代の寝顔に向けた。
離れていても顔が見たくなったらいつでも見られるように。

──いいかな。だめかな。怒るかな。

迷っていると五代が目を覚ました。
自分に向けられるスマホを見て、むっと眉間にしわが寄る。

「盗撮とは感心しませんね」
「まだ撮ってないよ! 寝顔もかっこよかったからつい……やっぱり駄目?」
「僕の寝顔なんか撮っても仕方ないでしょう」

ため息交じりに言って五代はまた目を閉じた。
駄目と言われなかったということは撮ってもいいということだ。

ありがとう五代くん!
心のなかでお礼を言いながら秋邑はシャッターを切った。
こっちの角度からも!
と微妙に違う角度からも一枚。
こっちも!
また別の角度からもう一枚。

四枚目を撮ろうとしたら五代が起き上がった。

「何枚撮る気ですか。それよりいま何時ですか?」
「えっと……うわ、もう16時半だ」

五代が寝てからいつの間にか3時間が経っている。
ほとんど五代の寝顔を見ていただけで。光陰矢の如しとはこのことだ。

「すみません、寝すぎました」
「俺も起こさなくてごめん。すっきりした?」
「おかげさまで。ありがとうございます」

布団をはいで五代が立ちあがる。
寝癖がついている。
それを直してあげるあいだ、おとなしくしているだけの五代が無性に愛おしい。

キスしたい。

五代のそばにいられるだけで満足しなきゃいけないのに、自分はどんどん欲深くなっている。求めるばかり、与えられるばかりで五代になにも返せていない。

「買い物行こうか! おいしいもの作るよ!」

最近始めた料理はもちろん五代のためだ。
それまで外食の多かった秋邑がせっせとネットでレシピを調べ、一度自宅で練習してから、成功したと思う料理を五代に振る舞う。
それまで気にしたこともなかった栄養バランスを考えるようになったし、自分では買ったこともなかった果物も買うようになった。
すべて五代に喜んでもらうためだ。

それに五代と2人でスーパーに行って買い物をするのも同棲気分を味わえて楽しい。

今日もウキウキと五代とスーパーへ行き、メモを元に食材をカゴに入れ、何気ない会話に幸せを噛みしめながら買い物を済ませ、アパートへ戻ってきた。

秋邑が料理をしている間に五代は洗濯物を中にいれて畳んだ。
それが終わると勉強を始める。
料理をしながら、秋邑は何度も五代の姿を盗み見た。
それはもう癖とか習慣というより、秋邑にとって生きていく上で必要不可欠な行為になっていた。

出来上がった料理を2人で食べる。
五代が食事をする姿を見るのが好きだった。きれいに残さず食べてくれるし、おいしいと褒めてくれるし、礼も言ってくれる。
後片付けは自分がする、と言うのを断って、勉強の続きをするように言った。

後片付けが終わったら五代の勉強の邪魔をしないように本を読んで過ごした。
厳選された五代の本棚から本を一冊借りて一行読んでは目をあげ五代を見る。
見覚えのある挿絵を見つけ、これを読むのは二度目だったとやっと気付いた。
五代のそばにいるのに小説に集中できるわけがない。

ペンを置いた五代が軽く伸びをした。

「お茶かコーヒーいれる?」
「いえ、一段落ついたし、これ以上アキさんを放っておくのも可哀そうですしね」

床に手をついて五代が体の向きをかえる。
身を乗り出し秋邑の目を覗きこんでくる。
我慢も限界で、断りなく五代にキスした。
腰をあげ、両手で五代の頬を挟み、夢中で吸い付いた。
五代の手が服のなかに忍び入ってくる。大きな手が直接肌を撫でるだけで腰が砕けそうになった。

「五代くん……っ」

好きという感情が溢れて窒息しそうになる。
全部を伝えきれないことがもどかしい。

五代のベルトを外し、チャックをおろした。
なかに手を入れ、重量のあるそれを外へ連れ出す。
手で軽く擦ると少し大きくなった。
手だけでは物足りない。

秋邑はそこへ屈みこみ、先端に音を立ててキスした。
口を開け、亀頭を咥えこむ。
歯を立てないように上下に扱いた。
口のなかで五代が大きく育っていく。

完全に立ちあがると、秋邑はそれから口を離した。
ごくりと咽喉が鳴る。目が離せない。自分で呼吸が荒くなっているのがわかる。
うっとりと五代のペニスに頬擦りした。
鼻を擦り合わせ、唇で表面の感触を味わった。

──あ、うそ、やば……!

軽くイキかけて焦った。
こめかみの辺りを不意に撫でられて目をあげると五代と目が合った。
全て見透かしたような目。
ひとり盛っている自分に気付いて恥ずかしくなる。

「五代くん──」
「もういいですよ。ゴムをつけますから」

五代の手にコンドーム。
一瞬真顔に戻った秋邑はそれをひったくっていた。

「今日はそのままがいい!」

これ以上五代との間に邪魔なものを増やさないで欲しい。
五代のものなら何一つ取りこぼしたくない。

「アキさんてほんと、いやらしい人ですよね」
「そんなことない……っ」
「今から証明しますよ」

五代に押し倒された。
パンツごとズボンをずらされ、尻を丸出しにされる。
そこへ五代はローションを垂らした。冷たい液体が窄まった中心に垂れ落ちてくる。五代はそれを手に絡めると指を入れてきた。
それだけで秋邑の体はゾクゾクと震えた。

「ふっ、あっ…ああっ……」

勝手に声が出てくる。
もっと奥を、もっと太くて硬くて熱いもので擦って欲しい。

震える手でズボンとパンツを足から抜いた。
しっとり汗が滲んで暑い。上もさっさと脱ぎすてた。
五代がやりやすように自分で膝を持ち上げる。

「自分がどんな顔でどんな格好をしてるかわかってますか? これでもまだ違うって言い張るんですか?」
「俺、ほんとに……違うのにっ……五代くんに触られたら、おかしくなっちゃうんだよ……!」
「僕だけのせいとは思えないんですが」

五代の何度も指が出し入れされる。
そのたびに体中にビリッビリッと電気のような快感が走り抜ける。
秋邑のペニスがフルフルと震えた。

「ほんとっ……だよ……! あっ、ああ……指、抜いて……! やだ、五代くん、あっ、ああっ……や──ッ!!}

ビクビクと体を震わせて秋邑は射精した。
一瞬気が遠のきかける。現実に引き戻したのは五代の指だ。
さらなる快楽が追い打ちをかける。秋邑は自分の足に指を食いこませた。

「ひ……う、あ、ああっ…いやっ……あっ、五代くん! やだっ、指止めて! いまは……や……ッ! またイクから……!!」

イク、と思ったとき、指が抜けた。
ほっと一息つく間もなく、五代のペニスが押し当てられる。
こんなに敏感になっているいま、あれを入れられたら……。

「待って、五代くん、お願い……!」

ずぶり、と先が押し込まれた。
柔らかな亀頭のあと、鋼鉄のように硬い竿部分が秋邑の肉筒を擦り広げながら奥へ入ってくる。
前まで異物感を耐える時間だったこの瞬間が、いまは脳内麻薬が出まくって我を失うほどの幸福な時間になっている。

「──ああ……ッ! 五代くん……!!」

目の前が真っ白になった。
秋邑のペニスの先からトロトロと液体が垂れ落ちる。
直前に射精したせいで勢いは弱い。

──うそ……これ、トコロテンだ……!!

五代も気付いたらしく小さく笑う。

本当に以前はこうじゃなかった。
女の子としているときもこんなに早かったことはないし、男としているときもこんなに感じたことはない。
五代の肌から媚薬が出ているんじゃないだろうか。

五代の腰がゆっくり動く。
ここからこの男は長い。
期待とわずかな不安。
自分はあと何回、イカされることになるんだろう。

※※※

目を覚ました秋邑は、すぐ五代の姿を探した。無意識の行動。
机に向かう五代を見つけて安堵する。
五代はどうやら勉強をしているらしい。
その横顔にしばらく見惚れたあと我に返って時計を見た。
もうずいぶん遅い時間になっていた。

そっと布団から起き上がった。

「五代くん」

声をかけたら五代がこちらを向いた。

「ごめん、寝ちゃってた。すぐ帰るね。長居しちゃってごめん。シャワー借りていい?」
「泊まっていかないんですか?」
「いいの?」
「布団はその一組しかありませんが、それでも構わなければ」
「むしろそっちのほうが俺は嬉しいけど」

こぼれ出た本音に五代が苦笑する。

「あ、コーヒーでもいれる? なんか夜食作ろうか?」
「いいですよ、寝ててください。まだ腰がだるいでしょう」

五代が言う通り、腰が重怠い。
今夜は結局4回、イッた。
最後はもうグズグズに泣かされながらこれ以上は許してと懇願した。
あんな醜態を晒すのも、五代にだけだ。

もうすぐ大学生活は終わってしまうが、この関係だけは終わらせたくない。
いつまでも続いて欲しい。

「そっち行ってもいい? 勉強の邪魔しないから」
「いいですけど、寒くないですか」
「大丈夫」

さっと服を身に着け五代の後ろに座った。
背中にもたれかかって頬をくっつける。
伝わってくる体温が暖かい。

「五代くん、大好き」
「知ってますよ」
「それよりもっと好きなんだよ」
「それも知ってますよ」

優しく言い含めるように五代が言う。

──それよりもっともっと好きなんだよ。

もどかしく思いながら、秋邑は目を閉じた。




夜の兄弟 1巻

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