相思幻影2

2021.09.18.Sat.
【大学生編】→目次

※小ネタ「インフルエンザ」のちょっと不思議ネタ、秋邑Ver.

中学/校から帰ってきた秋邑は制服を着替えてソファに寝転がった。
今日はこのあとクラスの仲間たちと遊びにいく予定だ。
その中にはいま秋邑がいいなと思っている女の子もいる。
彼女のほうからも好意的な笑顔や眼差しを向けられている気がする。
付き合いたいだとか、友達を抜け出したいとは、いまはまだ思わない。
もう少し、このくすぐったい関係を楽しんでいたかった

集合時間までまだ少しあった。
時間を潰すためにテレビを見ていたらあくびが出た。。
少しだけ寝るつもりで、携帯電話のタイマーをセットしたあと目を閉じた。

◇◇◇◇◇

気がつくと、生活感あふれる和室にいた。
ここはどこだとあたりを見渡すと布団が敷いてあってそこに誰かが寝ている。
ぎくり、と身をすくませつつ、秋邑はそっと近づいて顔を覗きこんだ。

大人の男だ。彫りの深い顔は青白く、眉間にしわが寄っている。
真っ黒な髪の毛は癖毛のようで軽くうねっている。
男は布団に包まりながらガタガタと震えていた。
具合が悪いらしい。

起こさないうちに部屋を出ようと出口を探した。
二間しかなくすぐに玄関の扉を見つけた。
出て行こうとして、秋邑はもう一度男を振り返った。
小さく呻く声が聞こえる。
放っていけなかった。なぜか後ろ髪引かれる。
男が寝ている部屋に戻り、看病するのにふさわしい物はないか探していたら「誰だ」低い声がして振り返った。

体を起こした男が秋邑を見て目を見開く。

「君は?」
「アキ」

知らない人に個人情報を教えちゃいけないと散々言われてきたのに、この男になら大丈夫だと、謎の信頼と自信があった。

男は額に手をあてて俯いた。

「大丈夫?」

慌てて駆け寄る。

「ああ……君はどこから入ってきたんだ?」
「わからない。いつの間にかここにいた」

普通、知らない子供がいたら怒るか追い出しそうなものなのに、この男はそれをしない。
秋邑も、さっさとここを出て行けばよかったのに、なぜかそれができなかった。
布団にくるまって震えているこの男が気になって仕方なかった。

「お兄さん、風邪なの?」
「インフルエンザなんだ」
「俺もかかったことがあるよ。小学生の時に」
「辛かったろう」
「うん。父さんも母さんも、どうしても仕事で休めなくて、一日俺一人でいなきゃいけなくて。すごく苦しくて寂しくて不安だった」

言い終わるやいなや、秋邑は男に抱きしめられていた。
手は冷たいのに、頬に触れた男の首筋はとても熱い。

「僕がそばにいられればよかったのに」

耳元で聞こえた男の言葉になぜか胸がきゅっと切なくなる。
心がポカポカと温かいような。少しそわそわするような。
それを自覚したら顔まで熱くなってきた。

「これからはずっとそばにいるから。絶対、アキさんを一人にしないから」
「俺が風邪をひいても?」
「ひいても」
「うつっちゃうよ」
「僕は構わないよ」

男が微笑む。秋邑もつられて笑顔になった。
男が笑うことが嬉しい。男の言葉が嬉しい。こうしてくっついていてもぜんぜん嫌じゃない。なんならもっと密着したっていい。

秋邑はいいことを思いついた。

「お兄さん、震えてるよ」
「寒気がするんだ」
「俺の時と同じだ。一緒に寝てあげるよ」

布団にもぐりこみ、男に抱きついた。

「まだ帰らなくていいのかい」
「うん! 俺が帰っちゃったらお兄さんが寂しいでしょ」
「ありがとう、アキさん」

額に口付けされて驚いたが、それよりもっと秋邑を驚かせたのは、額じゃなく口にして欲しかったと咄嗟に思ってしまったことだ。

──俺、おかしい。知らない人にキスされたのにぜんぜん気持ち悪いって思わない。逆に離れたくないって思ってる。

ずっと抱きついていたら、男の震えがいつの間にか止まっていた。
少しして寝息も聞こえてきた。
そっと触ってみた手も温かくなっている。
それを確かめると秋邑も安心して目を閉じた。

◇◇◇◇◇

ピピピ、ピピピ、ピピピ。
アラームの音で秋邑は目を覚ました。
リビングのソファから体を起こし、さっきまで見ていた夢を思い出そうとしたがうまくいかない。
幸せな夢だったことは間違いない。起きた時、自分が微笑んでいるのがわかったくらい。
それなのに寂しさも感じている。それはもう、本当に泣きだしてしまいそうなくらい。

夢のなかに大事な何かを忘れてきたような。
自分の一部を置いてきたような。

そのくらいの喪失感。

しばらくソファの上で考えてみたが夢の中身はぜんぜん思い出せなかった。
幸せな気持ちと、悲しい気持ちを半分ずつ抱えたまま、クラスの仲間たちと約束した待ち合わせ場所へ向かった。

そこには男女合わせて8人がすでに集合していて、秋邑を見つけるとみんなが手を振ったり声をかけてきた。
その中に秋邑が好きな女の子もいた。
笑顔で手を振っているその姿は今日もかわいいし、愛しいと思うが、なにか違和感があった。

そのあと好きな子と話をしても、笑いかけられても、ドキドキはしても前のようにはときめかない。

違和感の正体を探ろうと考えるとなぜか、覚えてもいないさっきの夢を思い出す。

秋邑はしばらく、この夢のことがずっと引っかかったまま忘れられなかった。



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