Question (6/11)
2020.08.31.Mon.
<1→2→3→4→5>
冬休みになり、一ノ瀬が本当に泊りのためにやってきた。一ノ瀬が俺の隣にいることがまだ信じられないでいる。夕方、迎えに行った駅の改札口で一ノ瀬が待っているのを見た時は心の中でガッツポーズを作った。
今は、バスケットゴールを一対設置しただけの公園に一ノ瀬と並んで立っている。
「ここで昔練習してたことがあるんだ」
隣に立つ一ノ瀬に話しかける。黒のコートのポケットに両手を入れた一ノ瀬は「へぇ」とバスケットを見上げた。
首にまいてるマフラーでその手を縛り上げ、泣こうが喚こうがお構いなしで俺の欲望のままに一ノ瀬を扱うことが出来たら……そんな想像をしているとも知らず、一ノ瀬は俺に向きなおり、
「どうしたんだ、木村、ぼうっとして」
と訝しむ。
「いや、なんでもないよ。 寒くない? そろそろ行こうか」
ここにいるのは、一ノ瀬が俺の通っていた中学校を見てみたいと言い出したからだ。ついでに散歩をしてこの公園に辿り着いた。
懐かしい場所だ。中学の時に始めたバスケの練習のためにしばらくここに通った。 来づらくなって、家のガレージにゴールを設置してもらってからは一度も来ていなかった。
来づらくなった理由は単純、失恋したからだ。俺の初恋の相手、瀬川鉄雄さんにこっぴどく振られた。告白した途端、
『てめえとはこれで終わりだ、二度と俺の前にその面出すな、わかったな!』
すごい剣幕で怒鳴られた。あれはこたえた。目の前が真っ暗になった。帰る足取りは半端なく重たくて、ちっとも前に進まない気がしたものだ。
鉄雄さんと初めて会ったのがこのバスケットコート。鉄雄さんに会ってしまうかもしれない、と振られてからは来ていない、苦い思い出のある場所。ここに今一ノ瀬と立っているのも不思議な感じだ。
そう言えば鉄雄さんは今頃どうしているだろう。あれから4年が経っているから、鉄雄さんは成人して今年21歳。
鉄雄さんは男に好かれるタイプの人だ。きっと今も本人の自覚なしに、男の色香を振りまいているに違いない。知り合った当時中1だった俺はすっかりそれにやられ、鉄雄さんに恋焦がれた。寝込みを襲うような真似すらした。
挙句、女相手に嫉妬して、とち狂って愛の告白、見事玉砕。俺も青かったな。
一ノ瀬と連れ立ってコートから出ようとした時、フェンスの向こうに人影を見つけた。じっと俺を見ている。
見覚えのある顔、忘れることのない人。
「鉄雄さん」
俺の呟きに一ノ瀬が怪訝な顔で振りかえった。俺の視線を辿り、鉄雄さんを見る。
「知り合いか」
「あ、あぁ、まぁね」
急いで公園を出て鉄雄さんと向き合う。一見不健康そうに見える乾いた肌の白さ、穏やかだが底が覗けない真っ黒な瞳、 いつも口角があがっているように見える口元、何もかわらない。かわったのは、髪の色が前より大人しくなって、少し長くなったくらいだろうか。思い出の中の鉄雄さんとは少し違う。当然だが、四年の年月の間に大人っぽくなっている。
「やっぱりロンか」
白い歯を見せて鉄雄さんが笑った。
「鉄雄さん」
「久し振りだな、 見ない間にずいぶんでかくなりやがって」
「はは、もう高二だからね」
高校二年。初めて会った時の鉄雄さんと同じ年齢。
「元気そうじゃないか」
「鉄雄さんもね。買い物?」
手に提げた袋を見て言った。
「あぁ、店の買い出しの帰り。お前も来るか?」
「店って、あの?」
俺が何度も通った鉄雄さんの店。 営業していないバーで、当時は鉄雄さんたちのたまり場だった。
「あぁ、親父から譲り受けて、今俺がやってるんだ。そこの奴も一緒に来いよ」
鉄雄さんが顎をしゃくる。その先に一ノ瀬。一瞬、一ノ瀬のことを忘れていた。
「鉄雄さん、こいつ同じ学校の一ノ瀬」
「よろしくな、ロンの友達ならいつでも歓迎するぜ」
一ノ瀬は戸惑う顔で俺を見、鉄雄さんを見たあと、ぎこちなく頷いた。
「よし、じゃ行くか」
背を向け、先に鉄雄さんが歩き出す。昔に戻ったような錯覚。走って鉄雄さんに追いつき、横に並んで歩いた。俺のほうが少し背が高くなっていることに気付く。鉄雄さんの横顔を見て改めて懐かしさが込み上げてきた。もう二度と会うこともないと思っていただけに、こうして誘ってくれたことは嬉しかった。
殺人注意
冬休みになり、一ノ瀬が本当に泊りのためにやってきた。一ノ瀬が俺の隣にいることがまだ信じられないでいる。夕方、迎えに行った駅の改札口で一ノ瀬が待っているのを見た時は心の中でガッツポーズを作った。
今は、バスケットゴールを一対設置しただけの公園に一ノ瀬と並んで立っている。
「ここで昔練習してたことがあるんだ」
隣に立つ一ノ瀬に話しかける。黒のコートのポケットに両手を入れた一ノ瀬は「へぇ」とバスケットを見上げた。
首にまいてるマフラーでその手を縛り上げ、泣こうが喚こうがお構いなしで俺の欲望のままに一ノ瀬を扱うことが出来たら……そんな想像をしているとも知らず、一ノ瀬は俺に向きなおり、
「どうしたんだ、木村、ぼうっとして」
と訝しむ。
「いや、なんでもないよ。 寒くない? そろそろ行こうか」
ここにいるのは、一ノ瀬が俺の通っていた中学校を見てみたいと言い出したからだ。ついでに散歩をしてこの公園に辿り着いた。
懐かしい場所だ。中学の時に始めたバスケの練習のためにしばらくここに通った。 来づらくなって、家のガレージにゴールを設置してもらってからは一度も来ていなかった。
来づらくなった理由は単純、失恋したからだ。俺の初恋の相手、瀬川鉄雄さんにこっぴどく振られた。告白した途端、
『てめえとはこれで終わりだ、二度と俺の前にその面出すな、わかったな!』
すごい剣幕で怒鳴られた。あれはこたえた。目の前が真っ暗になった。帰る足取りは半端なく重たくて、ちっとも前に進まない気がしたものだ。
鉄雄さんと初めて会ったのがこのバスケットコート。鉄雄さんに会ってしまうかもしれない、と振られてからは来ていない、苦い思い出のある場所。ここに今一ノ瀬と立っているのも不思議な感じだ。
そう言えば鉄雄さんは今頃どうしているだろう。あれから4年が経っているから、鉄雄さんは成人して今年21歳。
鉄雄さんは男に好かれるタイプの人だ。きっと今も本人の自覚なしに、男の色香を振りまいているに違いない。知り合った当時中1だった俺はすっかりそれにやられ、鉄雄さんに恋焦がれた。寝込みを襲うような真似すらした。
挙句、女相手に嫉妬して、とち狂って愛の告白、見事玉砕。俺も青かったな。
一ノ瀬と連れ立ってコートから出ようとした時、フェンスの向こうに人影を見つけた。じっと俺を見ている。
見覚えのある顔、忘れることのない人。
「鉄雄さん」
俺の呟きに一ノ瀬が怪訝な顔で振りかえった。俺の視線を辿り、鉄雄さんを見る。
「知り合いか」
「あ、あぁ、まぁね」
急いで公園を出て鉄雄さんと向き合う。一見不健康そうに見える乾いた肌の白さ、穏やかだが底が覗けない真っ黒な瞳、 いつも口角があがっているように見える口元、何もかわらない。かわったのは、髪の色が前より大人しくなって、少し長くなったくらいだろうか。思い出の中の鉄雄さんとは少し違う。当然だが、四年の年月の間に大人っぽくなっている。
「やっぱりロンか」
白い歯を見せて鉄雄さんが笑った。
「鉄雄さん」
「久し振りだな、 見ない間にずいぶんでかくなりやがって」
「はは、もう高二だからね」
高校二年。初めて会った時の鉄雄さんと同じ年齢。
「元気そうじゃないか」
「鉄雄さんもね。買い物?」
手に提げた袋を見て言った。
「あぁ、店の買い出しの帰り。お前も来るか?」
「店って、あの?」
俺が何度も通った鉄雄さんの店。 営業していないバーで、当時は鉄雄さんたちのたまり場だった。
「あぁ、親父から譲り受けて、今俺がやってるんだ。そこの奴も一緒に来いよ」
鉄雄さんが顎をしゃくる。その先に一ノ瀬。一瞬、一ノ瀬のことを忘れていた。
「鉄雄さん、こいつ同じ学校の一ノ瀬」
「よろしくな、ロンの友達ならいつでも歓迎するぜ」
一ノ瀬は戸惑う顔で俺を見、鉄雄さんを見たあと、ぎこちなく頷いた。
「よし、じゃ行くか」
背を向け、先に鉄雄さんが歩き出す。昔に戻ったような錯覚。走って鉄雄さんに追いつき、横に並んで歩いた。俺のほうが少し背が高くなっていることに気付く。鉄雄さんの横顔を見て改めて懐かしさが込み上げてきた。もう二度と会うこともないと思っていただけに、こうして誘ってくれたことは嬉しかった。
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コメントありがとうございます!!
木村と一ノ瀬2人揃わないという番外編が続いて飽きさせているのでは、と心配だったのでそう言ってもらえると安心します
このシリーズは脇役を多く出したほうなので(当社比)今後もちょこちょこ登場します!あんまりホモを増やさないように気をつけましたwでも多いという…。
今後も楽しんでいただけると嬉しいです!^^